子どもの教育に関して色んな意見があると思います。
中には怒鳴ったり、恐怖で子どもを従わせることが効果的だと思っている人もいると思います。
今回はそれらの恐怖で教育することが、一見いいように見えて実は失敗だったということについて、実際の例を挙げて紹介します。
子どもを教育するときに恐怖体験は必要なのか?
という疑問解決のヒントになる内容となっています。
今回は、アメリカで行われたスケアード・ストレート・プログラムを取り上げてお話していきます。
今回参考にさせて頂いた文献は『失敗の科学』マシュー・サイド・著/有枝春・訳です。
スケアード・ストレート・プログラムの目的
スケアード・ストレートというのは「恐怖を直視する」という意味を持ち、プログラムは実際に恐怖を感じることで学習ができるという発想から生まれました。
確かに「こんな怖い思いはしたくない。」という気持ちがあれば、そうならないために考えて行動するようになるかもしれませんね。
感覚的には効果がありそうな気がします。
非行少年たちを刑務所へ
1970年代のアメリカは重犯罪の約半数が未成年によるもので、なんとかこの治安状況を打開したいと考えていました。
そこで出てきたのが、今回のスケアード・ストレート・プログラムです。
内容は犯罪行為を犯す非行少年に対して、「刑務所で3時間、終身刑となった囚人と関わる」というものでした。
刑務所の雰囲気や、実際に終身刑囚と関わることによって恐怖心を与え、「犯罪を侵さないようにしよう」という気持ちを芽生えさせ、更生を試みたのです。
刑務所に行く前までは、血気盛んな少年たちは意気揚々としていました。
しかし、いざ刑務所に入ると緊張感が漂い始め、実際に囚人と対峙した時には完全に委縮していまいます。
子どもたちは、囚人たちから怒鳴られたり、刑務所に入ったらどうなるかを聞かされたり、汚い言葉で罵倒されたりしました。
中には泣き出す子や、恐怖のあまり嘔吐する子もいました。
子どもたちには相当のショックが掛かったことでしょう。
囚人たちも、子どもたちに自分と同じ思いをさせないために、真剣に刑務所に入ることの恐怖感を植え付けようと行動します。
効果は絶大!絶賛されたプログラム
このプログラムはテレビでも取り上げられていました。
私自身も見た記憶があります。
3時間のプログラムを終えた子どもたちは「二度と悪いことはしない」「あんな場所(刑務所)には行きたくない」と言っており、プログラムは効果があると示されていました。
しかし私は、
「プログラム直後は恐怖心から悪いことはしないと思っていても、何年かしたら忘れるんじゃないか?」
「その後大人になるまで見て判断しないと意味がないのではないか?」
とテレビを見ながら思っていたのですが、プログラムから20年後に関してもしっかりとデータが示されていました。
20年後の更生率は80%〜90%
テレビ放送では当時プログラムを受けた子どもたちの20年後の様子も放送されていたのです。
家庭を持っていたり、働いていたりしており、「あの体験が自分のためになった」と話して更生していることを伝える内容でした。
実際に更生率は80%~90%と高い数字を示したようです。
これは他の更生プログラムとは比較にならないぐらいの高い数字でした。
実際にこのプログラムには絶大な効果があったと絶賛され、多くの政治家や研究者も取り上げるようになったのです。
ここまで聞いて、どうでしょうか。
私自身、「自分が経験するのは絶対に嫌だけど、20年後でも更生率が高く、効果があるというのは凄いな。」
「恐怖と言うものは一定の効果はあるんだろうな。」
と思っていました。
しかし、この結論はやがて覆されることになるのです。
実は効果がなかった!?
このプログラムの更生率の出し方にはいくつかの欠点がありました。
更生率はアンケートの結果を基に算出されていたのですが、そのアンケートに問題がありました。
アンケートの内容は「大きな変化はありましたか」「小さな変化はありましたか」など良いとも悪いともいえる内容で全部で4問のみ。
答えは「はい」か「いいえ」の2択。
しかもデータ集計は回答があった家族のもののみを採用していました。
つまり、回答していない家庭のものは更生率の集計には入れていませんでした。
これでは正しい数字は分かりません。
また、反事実の検証を行っていないという問題点もありました。
反事実と言うのは、もしプログラムを行っていない場合はどうだったのかという検証です。
何もしない場合と比べて、それよりも良い効果が得られているということが分かって始めてこのスケアード・ストレート・プログラムには効果があるのだと言えるのです。
その後、反事実を踏まえて検証した結果、プログラムは実際には効果がなかったことが実証されました。
むしろ逆効果だった
しかも「プログラムに参加した子どもたちの再犯率は、参加しなかった子どもたちと比べて高いことまでも判明したのでした。」
「キャンベル共同計画」という研究やデータ実証、科学的な証拠を大事にしていて、思い込みや勘違いを無くしましょうということに力を入れている機関もこのスケアード・ストレート・プログラムには効果がない、むしろ逆効果であると発表をしました。
「キャンベル共同計画」はスケアード・ストレートに代表されるこの種のプログラムは、有害な影響を及ぼして再犯率を上昇させる可能性が高い。(中略)青少年をプログラムに参加させるより、何も実施しない方が状況の改善に繋がったと思われる。
と発表したのです。
さいごに
以上がスケアード・ストレート・プログラムのお話になります。
どうだったでしょうか。
正直、このプログラムは効果があるんだと認識していた私にとっては、驚きの内容でした。
実際に、今でもこのプログラムには効果があると主張し続けて行われているところもあるようです。
何もしない方がましという結論を受け入れるのは難しいと思います。
何をしたらいいんだ。何かしないと。って思う気持ちは持って当然とも思います。
今回のお話で、プログラムに変わって何をしたらいいのかと言う問いに対しては「これだ」という結論は出せません。
しかし少なからず、恐怖で従わせるのは逆効果であるということははっきりしています。
恐怖でこどもを支配しても、そこには心の傷を残すだけ。
これは覚えておきたい内容ですね。
私なりの推測ですが、更生する要因として実際に関係しているのは、気にかけてくれる人の愛情だったり、環境の変化だったり、大人になるにつれての心の変化だったり、色んな要素が重なり合って更生という結果が生まれているんだと思います。
本日のお話は以上になります。
これからも、自身が学んだり、体験したことなどから、ためになるなと思ったお話や情報を発信していきます。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
皆さんのこれからがより輝くものになりますように。
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